トムヤムクンばっかり2泊3日
バンコク、サムットプラカーン
もちろんわたしだって食べることは大好きです。どのくらい好きかというとずっと食べていたい。太りさえしなければ。そしてできるならこの世のおいしいものをすべて食べつくしたい、太りさえしなければですけども──ということで今回の旅のテーマはタイ料理。そのなかでもご存じキング・オブ・アーハンタイ、トムヤムクンを取り上げたいとおもいます。
中華のフカヒレスープ、フレンチのブイヤベースと並んで世界三大スープのひとつ(ロシアのボルシチが加わる説もあるそうですが)といわれるこのトムヤムクン。トム=煮る、ヤム=混ぜる、クン=エビの意味だそうで、酸っぱ辛いスープにエビの甘みが引き立って、一度食べたら忘れられない味ですね。そのおいしさの秘密を知りたい! ということで、主にトムヤムクンを食べ歩きつつタイの食文化に触れる2泊3日、さいごには現地の料理教室でつくりかたも教わってしまおうという旅です。
せっかくですので、食べたトムヤムクンには勝手に★で評価つけちゃいます。最高は★5つ。ちなみにわたしが日本でいつもいただいている某店のトムヤムクンは、指数4総合評価星4つくらいでしょうか。あくまでもわたくし基準ですので、個人差はご了承のほどを。
辛さ指数 4 辛いんですけどこれがええんや! いつも汗かきながらいただきます。
酸味指数 4 この酸味はなんなんでしょうね。でもこの酸味なくして、トムヤムクンなし!
コク指数 4 エビとかスパイスのうまみがぎゅっと濃縮した感じがやめられません。
総合評価 ★★★★☆
これがわたしの日本でいちばんおいしいと思うお店のトムヤムクンです。
☆ひとつ余らせたのは本場タイへの期待ととっていただければ。というわけで今回ばかりは体重のことを考えないことにしつつ、がんばってまいりましょう!
さっそくですけどインジャルーン市場。
August 8[Sat], 2009 05:48星の瞬く夜明け前の空のもとバンコクに到着いたしまして、「さっそくですけど」と手配の車でまず訪れたのは、スワンナプーム国際空港より西へ約1時間、私設市場ではバンコク最大というインジャルーン市場。おはようございますねむいです。まだ外は真っ暗なのにすでに駐車場はぎっしり。バンコク市内の大型レストランのシェフから一般家庭の主婦まで買いにやってくるというこの市場、いちばん混むのは6時ごろとか。別の世界の話のようです。でもこんな時間にバンコク着でしたからね。というわけでここらへんからタイの食文化に触れていきたいとおもいます。
それにしても市場へはいってみるとびっくり! 広大なフロアに見渡す限りの食材食材食材です。詳述はめんどくさいので書きませんが野菜に肉に魚──これ全部食べるんですよすごいですね!
あちこち目移りさせながら歩いていると、目のあった卵屋さんのお母さんが、どう? と卵を半分に割って差し出してくれました。なんですかこのショッキングピンクの殻は、と思ったら……これピータン? おいしい!「おいしいでしょ、うちのは新鮮だからね」店先ではビニール袋詰めの割り卵も売られてました。これも新鮮さをアピールするためだとか。「一日で700〜800個の卵を売るのよ!」ちなみに、仕入れはバンコクから1時間ほど北にあるアユタヤの農場からだそうです。
かっこいいお兄さんがいたお店は薬味を取り扱うお店。にんにくにシャロット、そしていつぞや地獄を見た小さくてもすごいヤツ、唐辛子のプリッキーヌ。「この店は母が30年前に始めたんです。僕は大学卒業してからいろいろやりましたけど、30歳を機に家業を継ぐことに……」だそうです。そのお隣のお店では、ぼこぼこの皮のこぶみかんなどが並びます。「うちはトムヤムの食材専門。かごに乗っているのをひと通り買うとつくれるよ」おお、そんな専門店が! ただしお値段はやはり1キロ単位。1回買い物したら1週間トムヤムクンが続くんですかね、もしかして。
市場をめぐって試食の旅。
August 8[Sat], 2009 06:17続いてやってきたのは果物エリアです。さすが南国、バナナやスイカなどなどからあまりなじみのないものまでいろんな果物が揃ってますね。「食べてみる?」との声に顔を上げるとお店のおばあちゃん。手渡されたのは、ごわっとしたベージュ色の鳥の卵か小さいじゃがいもみたいなんですけど、皮を剥けばなかから半透明の白い実が。これはロンゴン。甘酸っぱくておいしー。これもどう? と、お次は赤くてもしゃもしゃした毛が特徴的なランブータン。うーんこれも皮を剥いたら半透明の白い実がおいしい!
さてさて、どんどん参りましょう。月餅、クレープ、綿菓子……食べます食べます! ああタイの市場はまさに天国。心の☆はすでに高速点滅! という市場にはもちろん、他にも先述のように豆腐、乾物、米、カレーペースト、肉、魚……と、食べるもんならなんでもこいです。たとえば、お米屋さんにはざっと15〜20種類のお米が並んでるし、魚介類エリアではお馴染みの海水魚からなまずや雷魚といった淡水魚、エビカニや貝類、おまけにカ、カエルとか……。すべて活きがいいです。うん、というか、ほぼ生きてます。
ゆでソーメン専門店というのもありましたよ。老婦人が1キロパッケージを買っていました。どうするんですかそんなに……「これ? お昼にカレー掛けて食べるのよ」だそうです。そんなに食べるのか……と思いながらも、ふと気づきました。タイにはあまり太った人がいないということに。もしやもしや、タイ料理はいくら食べても太らないのか……!
大御所料理研究家の先生によるトムヤムクンのお話。
August 8[Sat], 2009 06:58市場の2階には、タイの有名料理研究家であるシーサモン・コンパン先生の教室があるらしいので、ちょっと覗いてみることに。大御所でいらっしゃるそうなのでちょっと緊張しながらご対面すると、「ここではタイの伝統的な料理を教えているのよ。今日はちょうど滋賀県に住んでるタイ人女性が学びにくる予定なの」と、にっこり。世界各国からタイ料理を学びにやってくるんですって。
タイのお菓子チョームアンづくりを見学させていただいた後、先生にトムヤムクンのことを聞いてみました。もともと川沿いに暮らすタイ人が川エビを使ってスープをつくったのが始まりというトムヤムクン。調理時間はだいたい15分から30分と、スープにしては意外に短時間なもので、その理由はエビが硬くなるからだとか。また、長く煮ると香りも飛んでしまうからとも。辛味も酸味もあるけど、香味もたいせつなご馳走ですもんね。
調理の際の最大の注意点は、一つは、エビの下準備を怠らないこと。背わたを丁寧に取り、熱湯でさっと下茹ですること。こうすることで、エビの生臭さがなくなります。もう一つは、ガランガ(和名ナンキョウ/ショウガ科のハーブ。カタいやつ入ってることありますよね)を絶対入れないこと。この香りはエビの旨みをなくしてしまうからだそうです。でも日本のレストランだいたい入ってますよね。タイでも入ってるとこあります。まあそこらへんは好みということもありますしね……。では、大先生の仰ったことを念頭に、ここからトムヤムクンをもとめる旅をスタート!
腹ごなしにお散歩。シーロムのスーブ・サンパンタウォン教会。
August 8[Sat], 2009 10:01スタート! なんて言っちゃいましたが、正直お腹も頭も満腹。なのにまだこんな時間。次に行く予定のレストランもまだ開いてないです。なのでそのレストラン近くにある木造の小さなかわいらしい教会へ寄ってみることに(日曜日でないと中へ入れないのですが、特別に入れていただきました)。
このスーブ・サンパンタウォン教会は1904年、ある高級官僚が亡くなった息子・スーブさんのために建てたものだそうです。礼拝堂は2年前に修復したばかりですが、白い壁のあちこちに、色とりどりのステンドグラスがはめられてます。ふと見上げると壁の一部がむき出しの古くて時代を感じるレンガ。これは、建築当初のもので、礼拝に来た人が見て、この教会の歴史を感じられるようとの配慮からだとか。また、正面には100年前から建つ鐘楼があります。
この界隈、緑も多くてほんと落ち着きます。近くには、レトロ建築の図書館や、ベトナム料理の人気のレストラン、学校などがあったりして、オフィス街のシーロムと思えないエリアですね。
王室直伝の料理です。カラパプルック。
August 8[Sat], 2009 10:25教会を出て左へ200mほど進むと、プラムアン通りに面したレストラン、カラパプルックがあります。地元では古くから「オシャレでヘルシー」と人気だったとか。開店には少々早いですけど、なんかいけそうだったのでお店に入っちゃいました。左手にはいろいろな野菜が並んでて、右手はパンとケーキがずらり。おいしそー。その奥にテーブルです。
「お茶だけでも楽しんでいただけるんですよ」とにこやかに言うのは、お店のオーナーのサボディ・タナカーンさん。オーナー一家は王室のご出身だそうで、母方のおじいさまが王立野菜栽培プロジェクトの責任者だったので、店で使われる野菜のほとんどは王立プロジェクトの無農薬野菜だそうです。タイはいま、健康ブームなんだとか。
ところでトムヤムクンなんですけど……と切り出すと、「味見してみます?」ということでついにご対面。グリーンの器に真っ赤なトムヤムクンのスープが湯気立ててます。ではさっそく……ひとくちすすって思わず顔がほころびました。おいしい! あぁ、ボキャブラリーが貧困で残念ですけど、ほんとにおいしい!
「それはよかった! うちは料理の手順を徹底的に守るの。具材それぞれで火の通り方や役割も違うから、正しく加えていかないとおいしさが出ません。すこし手間が掛かるけど、これが本当のおいしさをつくる秘訣なの」エビの下ごしらえやガランガを入れないところなど、今朝シーサモン先生の言葉と重なります。それにしてもおいしい。辛さもマイルドですよね。「それはね、うちの料理は王室の味を守っているからよ。王宮料理は、食べる人を汗だくにするような味つけはしないの」なるほどー。それにしてもコクといい、酸味といい、いきなり本物に出会った気がします。ごちそうさまです。評価は、いきなりの5つ星!
辛さ指数 | 3 |
---|---|
酸味指数 | 4 |
コク指数 | 5 |
総合評価 | ★★★★★ |
いきなりの5つ星。風味豊かでバランスが取れていて欠点なし、これに出会えて幸せって感じの味でした。これが本当のトムヤムクンなのですね。★をあと2つ足したいくらいです。
タイNO.1のトムヤムクンを出すお店、Garlic。
August 8[Sat], 2009 12:44ああおいしかった。なんて車中でさきほどの余韻に浸っておりますが、はやくも次の店へ向かっております。「タイでもっともおいしいトムヤムクン」を食べにいきますよ。なんでもタイの中小企業支援機構がおこなったコンテストで、堂々の優勝をおさめたお店なのだとか。
場所はバーンスー区。主に住宅街といったところですが……こんなところにタイNO.1に輝いたお店・ガーリックがあるの? まあ日本でも最近は、郊外においしいお店増えてますけどね。なんて考えている間に到着。なんだかドイツやスイスあたりの山小屋を思わせる外観。日本のどっかの国道沿いにかつてこういう喫茶店よくありましたね。懐かしい気持ちになりながらお店に入ると、ご家族連れなどがすでに10名ほど食事してます。席に案内されてメニューをみている間も、続々とお客さんが。おお、やっぱり人気店みたいです。さてさて注文は。
まずはやっぱりトムヤムクン。今回の旅はこれが目的ですからね。で、あとは……と周りを見渡すと、どのテーブルにもスポンジケーキのようなものが。どうやらこれはこのお店の名物カニのオムレツ。じゃあそれも注文!
……来ました!湯気を立てて、わたしのトムヤムクンが!さっそく、あつあつのところを。ん? なんかスッキリした味。さわやかと言うか。もうひとくち。おいしいです。おいしいけど、いままで味わったことのないトムヤムクンです。辛さも酸味もちゃんとあるけど、ほのかな“草”のような匂いと舌が辛さでピンチの時に口にするココナツの果肉の甘み。でも、飲み込んだ後、舌の上には、“旨み”が残るんですよ。なんと言うか、スープながら、口の中にグリーンサラダを食べた後のようなキレのよさがあります。この感覚、初めての経験です。
そしてカニオムレツ! 直径20センチはありますね、ケーキみたいで迫力です。びっくりしたのは中身。カニの身ぎっしり。もしや9割方カニではと思うほど詰まってます。あらあら、いくらでも入ります。わたしのお腹に。トムヤムクンには大きな川エビ、オムレツにはたっぷりのカニ。これ日本だったら高級料理ですよねえ。
辛さ指数 | 5 |
---|---|
酸味指数 | 5 |
コク指数 | 3 |
総合評価 | ★★★★★ |
これまでに経験したことの無い味でした。でも、青っぽい酸味がなんとも爽やかでおいしいです。新しいトムヤムクンを見つけた感じです。
キッチュでポップなホテル、Mystic Place。
August 8[Sat], 2009 17:13……さすがにしばらく動きたくないくらい満腹です。こんなに食べて万が一太らないんなら、わたしタイに住みたいです。というわけでいつものマッサージ屋さんへ参りましてしばしの(お腹の)休息、しかるが後にホテル・ミスティックプレースへチェックイン、です。BTSサパンクワーイ駅からBTSの高架沿いに南へ、そしてプラディパット通りを西に数百メートル。原色はじけるかわいい雑貨屋さんにピンクのアパート? ……ここですか! 1階のフロントに入るとまたびっくり。壁も天井も床も、絵やらオブジェやらの色鮮やかでキッチュなポップアートで埋め尽くされて、なんだか楽しい!
小さなぬいぐるみのついた鍵をもらって部屋へ。廊下も階段も、各部屋のドアもそれぞれ個性的です。ドアにつる草の絵がかかれていたり、中華食堂?と思うようなところもあったり。さて、わたしの部屋は……真っ赤な壁になぜかすんごくファットな女性像の絵がズラリと壁に掛かった部屋。なぜ? 何かの暗示?と、多少複雑な気持ちを抱きつつ荷物を広げます。
スクンビット・ソイ38、屋台でたべるトムヤムクン。
August 8[Sat], 2009 20:06ちょっとだけ、とベッドに横になったのは覚えてたんですけど……外はすでに暗く。おなかすきましたか? すきましたね!ということでホテル専用トゥクゥクで南へ5分、BTSモーチット駅へ。そこからスクンビット・ソイ38へ向かいます。
BTSトンロー駅から眼下にながめる屋台街が、めざす本日の夕ごはん場所。通りの両側に50mくらいにわたってずらりと屋台が並びます。串焼きやさんや麺屋さん、日本語で「たこ焼き」「焼きそば」の看板もありました。地元の人にとって、ここは夜中に小腹がすいたなあというときに、気軽に車を飛ばしてやってくるところ。最近では外国人観光客の姿も増えたそうです。
まずは、座るところをキープ。ここの屋台ではテーブル&椅子をキープすると、どのお店にも注文できます。つまり、向こうの店の串焼きも、隣の店の麺も、前の店の野菜炒めも、なんて感じで自分でコース料理できちゃいます(食後のデザートもあります)。しかも一人100バーツ、300円あれば、満足する量が食べられちゃうのがすごいですね!
で、さっそくトムヤムクンとサテ、空心菜炒めを注文。待つこと10分。来ました、白いどんぶり風のお鉢に赤いトムヤムクン! 湯気とともにあの香りが立ち上がっています。うーん、この瞬間がたまらない。いっただきまーす……お、おいしい。辛さも、酸味も、コクも全部がきちんと自己主張してるというか、はっきりくっきりしてます。いつも、仕事帰りに行くレストランの味に非常に近い感じです。食べなれている味に似ているせいか、「食べてる」っていう実感がこみ上げてきますね。ぐわーんと辛味もやってきました。鼻に汗です。こういうときは、味がマイルドなサテを食べながら、と。さて、判定は?
辛さ指数 | 4 |
---|---|
酸味指数 | 4 |
コク指数 | 4 |
総合評価 | ★★★★☆ |
ひとくち食べるとあぁ、これこれって感じです。最初に食べて、感動したトムヤムクンの味思い出します。ここにもいたのねって感じ。おいしいです。
オヤスミ、トムヤム君。
August 8[Sat], 2009 22:00いやーきょうは食べました。正統派のトムヤムクンってこんなのかという感動あり、お店によってこうも違うもんなんですねという発見あり、奥深いタイ料理の片鱗を見た気がします。あの市場の大量の食料をみたら、タイの豊かさとその料理のおいしさが分かりますよね。おいしいものいっぱい食べるって、本当に幸せ。
以前はトムヤムクンの話題に「トムヤム君ってだれ?」と返していたわたしですけど、この旅でトムヤムクン通になってしまいそうです。明日はどんなトムヤムさんに出会えるんだろうか。うつらうつらしているわたしに、壁の太った女性が静かに優しく微笑んでいます。
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