立ち技最強格闘技! ムエタイに挑戦@バンコク
May 31[Mon], 2010
タイを旅行中のある夜のこと。ホテルの部屋でことばのわからないテレビ番組をザッピングしながら見るとはなしに見ていると、ひときわ大きな歓声とアナウンサーの絶叫にリモコンの手がとまりました。そう、それはご存じムエタイ中継。激しい打ち合い、それを煽るように早口で繰り出されるアナウンサーのことばのリズムと、会場で奏でられるタイ民族音楽の旋律、そこへ観客の大歓声が被さってなんともいえないグルーヴが高まっていくあの様子──それに圧倒され、いつのまにかその画面へ吸い込まれていくような気分になりました。
あの現場に行きたい! そしてムエタイも体験してみたい!
……というわけで今回の旅はムエタイです。見るだけじゃないですよ。からだ全体で感じてこそ、心に訴えかけてくるものがあるはずです! はい、素人には多少無謀でしたけれども。
イサーン料理の食堂・リキット・ガイヤーンからスタート!
May 31[Mon], 2010 17:30まずはラーチャダムナーン・スタジアムでムエタイ観戦! なのですが、そのまえにスタジアムのすぐそば、リキット・ガイヤーンというイサーン料理(タイ東北部の料理のこと。タイ全国で人気があります)の老舗レストランで腹ごしらえから。店内はとてもリラックスできるいわゆる食堂といった雰囲気です。以前火事で消失してしまったことがあったそうなのですが、お客さんの願いと店主の情熱でなんと1週間で復活した歴史があるという、とにかく人気のお店なのだとか。ちなみにその火事以来、店内は禁煙です!
もちろん名物のガイヤーン(タイの焼き鳥)ならびにソムタムという青いパパイヤの辛いサラダを注文。これともち米のカオニャオで名づけてイサーン定食です。おいしい! このお店、ムエタイの試合観戦前にちょうどいいのか、それっぽい人たちが入れ替わり立ち替わりやってきます。みんなひいきの選手のことなんかを語り合いながらガイヤーンにかぶりついてるんでしょうかね。そうそう、ムエタイの選手はイサーン出身のひとも多いそうです。
ムエタイの殿堂、ラーチャダムナーン・スタジアム。
May 31[Mon], 2010 18:12お腹いっぱいになりながらやってきましたラーチャダムナーン・スタジアム! ムエタイの歴史はまさにここから始まったといっても過言ではない、1945年完成の伝統のスタジアムです。ここで活躍すること、それこそがムエタイ選手にとっての一流の証。きょう対戦する選手たちとプロモーターの顔写真が正面に掲げられています。この佇まい、そして臭い……とても「雰囲気」があるところです。
なかに入ると、まだ試合前ということもあって人もまばら。でも試合前の緊張感のようなものが感じられていいです。照明に浮かび上がるリングのまわりで興行に関わるスタッフや選手関係者たちが待ち構えています。お値段のお安い3階席あたりからゆっくりと人が埋まり始めて、これから試合がはじまるという高揚感がすこしずつ場内に充ちていきます。もちろんぼくたちはリングサイド。せっかくですからね。この日予定されているのは10試合。ラーチャダムナーン・スタジアムでは、日曜、月曜、水曜、木曜に興行が行われています。週始めの月曜というのに、やがて観客席はいっぱいになりました。
試合開始。
May 31[Mon], 2010 18:30リングアナウンサーのコールに続いて、セコンドやスタッフ、そして選手が入場。選手は頭にモンコンと呼ばれる輪っかを乗せ、もちろんヌアム(グローブ)とスア・クルム(ガウン)を身にまとい、首にはプワンマーライ(ジャスミンの花飾り)をかけるという華やかな出で立ちでリングに上ります。でもさすがに目つきはみんなとても鋭いです。
リングに上ると、まずはワイクルー(恩師への感謝とともに、戦いの神に勝利を祈り、同時にウォーミングアップの効果もあるという舞い、だそうです)。バックにスタジアム専属楽団の演奏によるタイの伝統的な音楽が流れて、場内は一気に独特な雰囲気に。選手は最後に自分のコーナーへ戻ってトレーナーとともにお祈りを捧げ、モンコンを外し……そしてついにゴングが鳴り響きます。
試合中のスタジアムはもうすごい雰囲気。カラダとカラダがぶつかりあう生々しい音と、そのたびにリングに飛び散る汗、そんな選手の攻撃に呼応して観客たちが一斉にあげる地響きのような唸り声と握り拳、ラウンドを追うごとにテンポをたかめていく古典楽器の旋律──現場で感じる迫力は、テレビで見ていたものと違います。ぜひ実際に来て味わってください! ちなみにリングサイドも近くていいですけど、試合自体は一段あがった2階席が見やすいかも。ファンのみなさんの熱気も近そうです。
勝利した者には惜しみない拍手と激励が、敗れた者には容赦ない罵声が。そんななかで肉体と精神を鍛え上げられる選手たちは、すごい世界で暮らしているんだなあと、なんというかすこし途方に暮れながら感心していました。
観戦終了。
May 31[Mon], 2010 22:1022時を回って観戦を終えてスタジアムを出ると、もちろん外はすっかり真っ暗。スタジアムのまわりでは、まだ人々がテンションを上げて熱く語り合っています。一方ぼくはというと、ムエタイという格闘技の奥深さ、そして心技体のバランスがとれていなければ身を置くことが許されない、華やかではあるが、辛抱や我慢といった耐えることを求められる世界であるということを目の当たりにしてしまって、なんだか一気に不安になってきました。明日はジムで実際にアレをやるんですよね……
今夜はジムに泊まります、ソー・ウォラピン・ジム2。
May 31[Mon], 2010 23:00というわけでラーチャダムナーンからチャオプラヤー川を超え、車で30分ほど。タリンチャン地区スアンパック通りから真っ暗なソイ(路地)に入り、多少心細く思いながらもとあるアパートメントの前で電話で連絡をとると、そこへバイクに乗った女性が現れました。サワッディーカー、と笑顔で迎えてくれたその方が今回お世話になるジムのスタッフさん。さらにもうひとり、あとからバイクに乗って登場した男性がどうやらコーチのようです。だって精悍な顔立ちに鋭い眼光。真っ暗ななかでもわかります。あれは紛れもなくさっきスタジアムでみたのと同じ闘う人の目……! あたりに巡らされた水路のうえを渡って伸びていくソイは、細くてもうクルマも入って来られません。両脇に植物が生い茂る、静かな夜の暗がりをさらに奥深く。水路に落ちないよう注意しながら歩いてジムへ向かいます。
到着したソー・ウォラピン・ジム2は、30年以上の歴史をもち、海外からもたくさんの練習生を受け入れているジムです。門を潜ると大きなパパイヤやバナナの木が植わっている庭があり、その先に建物と、蛍光灯の青い光に浮かび上がるリングが目に入ります。荷物を降ろしたらトレーニング用具がきっちりと整理整頓されて並ぶ練習場で、スタッフのみなさんと握手。明日から始まるトレーニングのメニューの説明を受けます。起床はどうやら朝6時。
ちなみに通された練習生用の部屋はさすがにホテルじゃないわけで、ベッドと冷蔵庫とクーラー以外はなーんもない空間でした。でも、こういう空っぽな部屋をなにかで充たしていくために、彼らは戦っているんですね。明日は果たしてどうなるんでしょうか。不安と開き直りが交互に訪れる第1日目の夜でした。
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