Thailand
Globetrotter

テクテクタイランド

Amphawa / Samut Songkram

March 15[Sun], 2009

水に浮かんで癒されたい

アンパワー[サムットソンクラ-ム県]

水路を進んでいくと、緑の茂みのあいだからテラスを張り出した水上家屋がその姿を水面に映し出しながら現れては消えていく、反り返るように空へ伸びる独特の屋根、水中に立てられた電柱、家の前で半身を水に浸からせながら洗い物をしているおばさん、日用品を積んだ木製の小舟が行き交って、軒先に停まってはその家のひとを相手に商売をする──いまもそんな水べりの風景がみられるアンパワーは、現在タイ国内で注目の観光スポットらしいです。

なんでも灌漑用に張り巡らされたという運河沿いに発展してきた300年もの歴史ある街並みで、タイの古き良き伝統的な建築や生活がいまも残っていると。あとバンコクから1時間ちょっとでいけるのもたいへん手頃であると。それから日本人的には、2008年に公開された河瀬直美監督の映画「七夜待」で、ヒロイン演じる長谷川京子さんが、その豊かな自然や人々の優しさ、そしてタイマッサージによって自分を取りもどす、「癒しの地」としてこのアンパワーが描かれていたことも記憶に新しいです。心の水分を取り戻したかのようなハセキョーさんの表情の変化が印象的で、わたしだって取り戻したい自分がなきにしもあらず。そういうわけで、多少なりとも疲れた現代人、癒されに出かけたいと思います。

バンコク南バスターミナル。

March 15[Sun], 2009 12:43

出発はバンコク南バスターミナル(サーイタイ・マイ=南線新バスターミナル)から。アンパワーはバンコクから南西の方向に約75kmのとこにありまして、その交通手段は3つ。[1] クルマをチャーター、[2] バス、[3] 電車。今回の旅はタイのローカルにはまるということで、バスでの移動へ決定。

で、その南バスターミナル。かなり大きいです。まずはショッピングセンターにもなっているターミナルの建物に入って切符を入手。窓口のお姉さんに「アンパワーアンンパワー」と連呼してゲットした白い切符には、赤い文字で料金70バーツ、出発時刻13:00の996番バスです。

出発まで20分。えーと、しばらくターミナル内ぶらぶらし、ぎりぎりまでお店をひやかしたりしてましたが、もちろんそんなことせず余裕をもって乗り場に行かれることをお勧めします。なぜなら繰り返しますがこのターミナルはかなり大きいです。ダッシュ。

見渡す限りの塩田。

March 15[Sun], 2009 13:08

……と、いうわけでなんとか間に合って、汗だくでバスに乗り込んだらすぐさま発車。わたしたちが乗ったバスは、青と白のラインが入った多少古めの観光バスという感じ。バスは市内を走りぬけ、建物まばらなバンコク郊外を南西へ向かいます。

乗客は、大学生らしき女子2名、新聞読んでる休日のサラリーマン風の人、音楽聴きながら窓の外を見つめる若者(横顔がちょっとかっこいいです)、そしてわたしたちを含め7名。検札は若き女性の車掌さん、ロングヘアーに濃紺の制服のミニスカートがちょっと素敵。

1時間くらい経ったのかな。窓の外はいつのまにか見渡す限りの水田でした。お米ですかと前の席の女子に聞くと、「このあたりは海に近くて塩をつくっているのよ」とのこと。おお。見渡す限りの塩田に訂正。そういえば時々真っ白なミニピラミッドが見えますがあれも塩。道端の屋台も塩。「タイには、3ヶ所ほど塩の産地があるの。ここで取れる塩は甘みがあっておいしい、タイではスタンダードなお塩よ」だそうです。ところで、あなたたちはどちらまで?「週末なのでアンパワーの実家に帰るところ」なんですって。

駐在所の前で。

March 15[Sun], 2009 14:15

「ここやで」みたいな運転手さんの合図でバスを下車。その名もワット・ナーンワン駐在所前(ちなみに日本みたいなバス停の標示とかありませんでした)。ここに今日宿泊させていただくところのバーン・カマテープ・ホームステイ(いわゆる民宿です)のお父さんが迎えに来てくれることになってます。ここただの道端ですけど……。のある小屋近くで待つことおよそ20分、募る不安。そういえば駐在所やん、ということで警官のひとに聞いてみたところ「ここでOK」とのお答え。それならまあ大丈夫かと自分に言い聞かせていると、軽トラが横づけされました。どうやらこちらが「お父さん」。うんうんこれに乗れと。わたしたちを乗せると、クルマは村の中を直進し、急に右に曲がってジャングルな道を分け入ると、本日のお宿に到着です。10分くらいの距離でした。

メークローン川の上に建つ、古い民家。

March 15[Sun], 2009 14:45

そんな私たちを満面の笑顔で迎えてくれたのは、ここの肝っ玉母さん風(古い)女主人・ブンソムさん。靴を脱いで小さな橋を渡り、奥の建物に通されると、雄大なメークローン川へ向かって開かれたテラスのある母屋、川の向こうには大きな椰子の木々のシルエット。なんと開放的なー。思わず深呼吸です。

ブンソムさんの宿は築80年。「私はここで生まれて育ったのよ」と教えてくれました。6年前に改装して「ホームステイ」を始めたそうです。家具のひとつひとつにもなんだか年代を感じます。ブンソムさんの思い出も詰まってるんでしょうかね(ちなみにお父さんはマスオさん/タイは女系社会ではないが、家を継ぐのは末娘のことが多いそうです)。

それにしてもこの宿、本当におもしろい造りです。私たちが泊まる母屋から隣の建物へは、つり橋などで空中を渡っていきます。なぜなら床下はメークローン川。なんと水上に建ってるわけです。別棟には、一部屋だけのスイートルーム。つり橋の先を上にあがっていくと大部屋で、ここには蚊帳つきベッドが7つ。「マットを敷くと、何人でも寝られますよ」と。合宿や家族旅行に利用する人が多いらしいです。こちらの建物は以前パーム・シュガーをつくっていた際の作業場だったとか。「祖父母は椰子の栽培で生計を立てる農家だったの」だそうです。

あ、ちなみにわたしの部屋にはピンクのバラの造花に囲まれたピンクのベッドが。ロロロ、ロマンティック。

アンパワ水上マーケットへゴー

March 15[Sun], 2009 15:30

一息ついてると、早速テラスにチャーターの舟が横づけされました。やってきましたのは白髪マドロスなマナットさん。パナマ帽が男前です。私たちが宿泊する宿の2件隣に住んでいて、ブンソムさんとは幼なじみ。「アンパワーでNO.1のガイドよ!」と自信を持ってのお勧めでした。「水の都」アンパワーを楽しむには、やっぱり舟ですよね、ということでエンジンの音を轟かせながら出発!

ひろーい川の上を風切って、水しぶき上げながらグイーンっと飛ばすのは爽快です。川辺の人や舟で行きかう人に「おーいま日本の観光客を案内中だよ~」とマナットさんが声を掛けると、向こうも「そうか~気をつけて~」みたいな笑顔で手を振ってくれます。みんな古くからの知り合い、よき仲間なかんじです。わたしたちも笑顔で手を振ります。

川を北上することおよそ5分、左手に細い運河が見えてきました。ここが、水上マーケット「タラートナーム・アンパワー」。タラートは市場で、ナームは水です。その水路へ吸い込まれるように入ると、幅10mほどの運河に船船船。岸に張り出してつくられたコンクリート製の狭い歩道には人人人。すごい光景です。慣れないニホンジンたちは妙な緊張感持ちつつ、マーケットへ潜入です。

ひとごみーに流されてー♪

March 15[Sun], 2009 16:00

それにしてもこのマーケット、いろんなものがそろってます。アクセサリーにバッグ、月餅専門店、珈琲屋に果物屋、ジュース、カレー……マッサージ屋さんもありましたけど。水路側のテラスには食べ物屋さんのベンチやカラオケセットなどが設えてあって、わたしたちはその喧噪のなかを歩きます。水上では、一船一商売。麺屋さんとか焼き鳥屋さんとか焼きエビ屋さんとかがせっせと注文に応えてます……もう控えめに言ってもこれはお祭りですね。

で、ちょっと慣れてきて、人がいっぱいの狭い通路を進むコツわかりました。「譲るけど行く」が暗黙のマナーっぽいです。そうしないともう渋滞でにっちもさっちもいかなくなりますからね……。そんなこんなで人ゴミを離れ途中カフェで休憩しつつもマーケットを踏破。以下、活気あふれるマーケットの様子をおなかいっぱいになるまで写真でご堪能ください。

レストラン・バーン・チョムヴィウ。

March 15, 2009 17:45

マナットさんの船が18時すぎに迎えに来ることに気づき、急いで市場の入り口あたりにあるレストラン「バーン・チョムヴィウ」に駆け込みました。広々としたメークローン川を眺めながら食事が楽しめるとこです。メニューは、豆腐のスープ、揚げた魚と野菜の炒め物、ぷりぷりイカのピリ辛サラダ、春雨とお肉の炒め煮などなど。川風に吹かれて食べるのは、なんともおいしいですね。でもお腹いっぱい食べてひとり300円ちょっとですよ。

ふたたび船上の人となり。

March 15[Sun], 2009 18:20

迎えにきたマナットさんの船に乗って、さっき歩いていた市場のあたりを今度は川から見学です。やっぱり人があふれてます。でも奥へ奥へと進むにつれてお店が途切れ、住宅街のあたりへ。

ゴロ寝でテレビ観てるおじさん、水浴びする少年たち、川で食器洗ってる奥さん、忙しそうに歩き回ってるお姉さん、おじいちゃんに抱かれてこっちを観てる赤ちゃん……手を振るとみんな振り返しててくれました。水上からの景色はここで暮らす人たちの生活の断片を、絵巻のように見せてくれます。車窓からみるのとはまたちがった距離感でおもしろいですよ。もしかしたら船のゆったりとしたスピードがいいのかもです。それとも道じゃなくて水路なのがいいのかな。

船はどうやらぐるっと町なかを巡り、また大きく流れるメークローン川に戻ったようです。あたりはすっかり暗くなってきました。太陽が沈んで闇が深くなる川では、網を張る舟、釣りをする小舟があちこちに見えます……そのうちに、マナットさんが急に岸に船を近づけ、エンジンを切りました。岸にはうっそうと草木が生い茂り、セミの声がします。タイのセミは夜鳴くんだそうです。ふーんと思っていると、マナットさんが闇を指差しました。静かに、ほら、あそこ。

ほのかなヒカリの正体は。

March 15[Sun], 2009 18:58

真っ暗なシルエットになった藪の中にほのかに光るものがあります。ホタルです! 目を凝らすと、あっちにもこっちにも淡い光の点滅が。しばらくするとマナットさんが再びエンジンを掛けて移動。少し行くとまた止めました。ここでもチカチカと光ってます。さっきより多いですね。あ、光が動いて、ホタルが飛んでるみたい。あんな高い木の上にも。

タイにもホタルがいるんですね。知らなかったです。光りかたは日本のゲンジボタルみたいな儚げなのとは違ってオン/オフがはっきりした感じですけども、最盛期にはクリスマスのイルミネーションのように盛大で、これはこれで壮観らしいです。

それにしてもマナットさんすごいです。5ヶ所ほど進んでは止まりましたけど、止まるところには必ずホタルの光。しかもだんだん光の数が増えていきます。見せ方わかってますね。心ないニホンジンはLED仕込んでる疑惑を唱えてましたけども(もちろん冗談です)。マナットさんありがとう!

お夜食タイム。

March 15[Sun], 2009 19:30

そんなこんなで戻りました。タイといえど、日没以降の水辺は涼しいです。2時間近く川にいると肌寒く感じるほど。

マナットさんを見送ったあとは、お夜食タイム。市場で買った焼き鳥(サテ)とマプラーンというびわに似た果物(味は甘くて濃厚)、ザボンのソムオーです。さきほどのホタルについて語りあっていると、「うちにもいるよ」と宿のブンソムさん。早速見にテラスに出ると、いましたいました! アンパワーではホタルがいるのが当たり前なのかな?

一日の終わり。

March 15[Sun], 2009 22:00

その後ブンソムさんに「ぜひ!」とお願いしたのは、マッサージ。やっぱり今日の疲れは今日のうちにです。1時間120バーツ。約360円。日本の何分の一ですか。そうして宿のリビングに現れたのは、ベテランマッサージ師のおば様、御年たぶん50歳くらい。いいですか、タイのマッサージはおば様に限ります。若いお姉さんなんて。肉づき豊かな腕と指は、何にも変えがたい「ゴッドハンド」なわけです。優しい笑顔で「ハイ、横向いて」「ハイ、腕後ろに」「ハイ、力ぬいて」。はいはいとこたえつつ、ぎゅーっぎゅぎゅーと。

終わったあとは、お部屋でシャワーあびました。冷えてた身体もマッサージとあったかいシャワーでほどけていきます。

お風呂上り、川の流れを聞きながらひとりぼんやり今日を思い起こしました。市場の喧騒、ホタルの静寂、そして目の前の川。時間がゆっくり流れていきます。

と、その時床下から「ケケケケ、ケケケケ」という声。カエル?と思っていたら「トッケー、トッケー」という鶏みたいな鳴き声。なんか聞こえるな、程度じゃないですよ。すぐそこで大声で鳴いてます。鳥? カエル? もしかして未知の動物? こたえはトッケイというでっかいヤモリだそうです。うおお。