タイを愛する著名人の皆さんのお気に入りスポットを紹介するコラム企画「私とタイランド」。第3回にご登場いただくのは、2000年代のカルチャー・シーンを牽引した雑誌『relax』の編集長を務め、現在は家具や住宅のデザインを軸に幅広いプロジェクトを展開するランドスケーププロダクツで、ブランディングや編集を手掛ける岡本仁さん。何度もタイへ足を運び、その魅力を探し続けている岡本さんの見るタイをお伺いしました。また、岡本仁さんは書籍『NEW NEW THAILAND 僕が好きなタイランド』にも登場していますので、本記事と併せてぜひ手に取ってみてください。
ぼくのタイ愛は、いわゆる偏愛で、対象はチェンマイとその周辺に限られている。何がいいかというと、観光客にとっては不便と思われても仕方のない、その町を形作る人々の慣習や考え方が好きなのだと思う。公共交通機関はないに等しい。もちろんUberもない。英語はなかなか通じない。つまり、チェンマイの流儀というかシステムに慣れることから始めなくてはならない。簡単なタイ語(数字とか挨拶とか)を習得し、ソンテウ(赤い色をした改造ピックアップトラックの乗り合いバス)やトゥクトゥクの乗りかたを覚え、料金交渉もできるようになり、行きたいところに行けるようになった瞬間から、この町の楽しみが大きく広がる。それまでも時間がかかるが、そうなってからも時間はかかる。でも、自分は何をそんなに急いでいるのだろう。たぶん、そのことに気づくために、ぼくはチェンマイに行っているのかもしれない。
好きな食べ物はいろいろあるけれど、ガイヤーンとジョー・パッカーとタム・マクアは必ず食べる。一品一品説明するには字数が足りないので省くけれど、どの店でも、そのメニューがあれば頼む。そうそう、交通機関の乗り方と同じで、料理名だけはタイ語で覚えたほうがいい。とにかく、チェンマイの人々は、人が何かを食べるということに対してとても寛容なのも嬉しい。
ただし最後に、ぼくがいいと思っている部分は、世界中がパンデミックを経験した今となっては、どんどんと淘汰されていくものなのかもしれないことを、申し添えておきたい。
乗る前に行き先を告げる。乗り合わせた客はみな行き先が違うので、乗せるかどうか、どの順番でまわるかは運転手が決める。急いでも仕方がないよね。
簡単に言うと地鶏の炭火焼だけれど、店によってずいぶんと味が違う。好みの店を見つけるのも楽しみのひとつ。
骨付き豚肉と菜っ葉のスープ。味付けはトゥア・ナオ(北タイの納豆)とプラーラ(塩漬けした魚を発酵させたもの)などを使うので、発酵好きにはたまらない。
焼いた茄子を叩いてつくる辛いディップ。これがあるとカオニャオ(タイの糯米)をいくらでも食べてしまう。
Photo:Maya Matsuura
岡本仁(おかもと ひとし)
1954年、北海道夕張市出身。テレビ局を経てマガジンハウスに入社、雑誌『BRUTUS』『relax』『Ku:nel』などの編集に携わる。現在はランドスケーププロダクツにてプランニングや編集を担当するほか、キュレーションなども手掛ける。主な著書に『果てしのない本の話』『また旅。』『HERE TODAY』などがある。
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