日本でもタイ料理は身近なものとなってきていますが、一言でタイ料理と言っても、実は季節の食材を使用した料理やその地域ならではの歴史や伝統がうかがえるものなど数多くあります。人々の暮らしや伝統を知ることは、ちょっとした食の冒険でエキサイティングかつ新しい発見につながることでしょう。
今回は、国土の約3分の1を占めている「イサーン」と呼ばれる東北地方の特徴について、タイ国政府観光庁東京事務所 前所長のセークサン・スィープライワンがご紹介します。
東北(イサーン)地方の主な食材
保存食に欠かせない塩
イサーン地方の重要な川にラオスとの国境メコン川、国内を流れるムン川とチー川があります。海のないこの地方では魚といえば川魚が主で、昔から雨がほとんど降らない乾期には川魚の塩漬けや魚醤漬けのマリネを長期保存食と食べてきました。
魚だけでなく肉もまだ同様に塩漬けやマリネにしています。イサーン地方の味のポイントは塩漬けした塩気の多いものと辛み、そして酸味が多いことです。
タイ料理にココナッツミルクやココナッツジュースが使われる料理も数多くありますが、特徴的なのはこの地方ではココナッツはお菓子以外ではほとんど使われません。
最近では貴重になってきましたがマハーサーラカーム県、ノーンカーイ県、ウドーンターニー県などでは塩が採掘され、地元で採れた塩が塩漬けに使用されてきました。海がないこの地で塩が採れることから古代この地は海であったと言われています。地元で採れる塩が少なくなってきた現在、タイ中央部のサムットサーコーン県などの塩が使われています。
タイの発酵食品“魚醤プラーラー(パラー)”
タイ料理に欠かせない調味料の筆頭にあがるのは発酵魚醤、ナンプラーがありますが、イサーン地方ではナンプラーだけでなく、発酵した魚と米から作られたペースト状のプラーラーを使います。日本人にはパラーと聞こえるかもしれません。
数か月間発酵させた独特な強い香りのプラーラーは、この地方では青パパイヤのサラダ、ソムタムに欠かせない調味料で、ナンプラーではなくペースト状になったプラーラーを加えて調理します。これをイサーンではソムタムラオと呼んでいます。甘み調味料の白糖やヤシ砂糖は入れず、また生唐辛子ではなく乾燥唐辛子を使用することでより一層辛みが強いソムタムラオとなりこの地方では好んで食べられています。
イサーンではタガメ(タイ語はメンダー)を食べる習慣
また、イサーンではタガメ(タイ語はメンダー)を食べる習慣があります。市場で売っていますが、家でタガメを採取している家庭もあります。家の軒先にタガメが集まるよう紫色のネオンを設置しその下には水を張った甕を置きます。ここにタガメが落ちてきます。甕(カメ)に落ちたタガメは天日で乾燥させ、焼いて食べたり、発酵させてディップソースとして使用します。独特なにおいから好き嫌いが分かれるところですが、イサーンでは昆虫食として昔から食べられています。
アリの卵のスープ&サラダ
昆虫と言えば、イサーンではアリの卵を食べる習慣があり、サラダやスープにして食べます。ライムの酸味の代わりにアリを使うこともあります。3月~6月が旬ですが、缶詰があるため年中手に入ります。
セークサン所長が選ぶ「タイで食べるべき」イサーン料理TOP5
タイ語でイサーンと呼ばれるタイ東北地方の料理の特徴は、辛くて、塩気が効いていて、甘味が少ないことです。ここでは、セークサン所長おすすめのイサーン料理を5つご紹介します。
1、たたくとおいしい青パパイヤのサラダ「ソムタム」Somtum (ส้มตำ)
イサーン料理の代表格「ソムタム(青パパイヤのサラダ)」。名前の語源はイサーンの方言で「ソム=酸っぱい」、「タム=叩く」です。その料理名においしく作る秘密が隠されています。
タイの屋台でソムタムを注文すると、青パパイヤを調味料や干しエビ、トマトと一緒に臼に入れて棒でたたきます。「ポックポック」と軽快な音が聞こえたらおいしくなる合図です。
具材をボールの中で和えて混ぜるのでは「ソムタム」とは呼べません。臼の中で軽快に「たたく」ことで旨味が出て味が染み込みおいしいソムタムになるのです。
20県あるイサーン地方は、各地域によってご当地ソムタムがあります。ナコーンラーチャシーマー県(別名:コラート)のソムタムは「タムコラート」と呼ばれ、乾燥唐辛子がたっぷり入っています。通常生唐辛子を入れて作りますが、コラートのソムタムは乾燥唐辛子入りで激辛です。ピマーイ遺跡観光の後は、レストランで「タムコラート」をお試しください。
ソムタムの酸味は生のマナオ(タイのライム)を使いますが、イサーンでは、ライムの代わりにマコやワイルドオリーブを使います。ライムとは違う酸味と風味が加わります。しょっぱさは発酵魚ペーストのプラーラーや魚醤ナンプラー、甘みは白砂糖を使います。
本場イサーンでは、ソムタムの甘味に白砂糖を使います。一般的にはパームシュガー(ヤシ砂糖)を使いますが、イサーンではパームシュガーは甘味が強く出てしまうため、料理にはあまり使いません。これがイサーン料理は甘くなく辛くて塩辛い理由です。ソムタムひとつとっても地域によって味はさまざま、種類も豊富です。
2、香ばしい炭火焼き鳥「ガイヤーン」Kai Yang (ไก่ย่าง)
鶏の炭火焼「ガイヤーン」もタイ料理店に必ずある料理のひとつです。鶏肉をナンプラー、唐辛子、にんにく、パクチーの根、タイの醤油「シーユーカーオ」などを混ぜたタレに漬けおき、竹の棒で肉を挟んで炭火でじっくり焼いたものです。
シーサケート県では、竹の棒の代わりにハーブの茎を使うため香りが違います。一緒に食べるタレは辛く酸っぱい「ナムチムジェオ」や甘辛の「ナムチムガイ」です。ライムの代わりに酸味が強いガルシニアを使うこともあります。
放し飼いや平飼いで育った鶏で作るガイヤーンは、筋肉質で脂肪が少なく歯ごたえがあり、うまみが詰まっています。
コーンケーン県のHighway2(別名:ガイヤーン通り)は、日中はガイヤーンの屋台が連なる通りで、ワンナー・ガイヤーン・カオスンクワンと呼ばれ賑わいます。門外不出の秘伝のタレで漬け込んだガイヤーンの香りが漂います。
3、煎り米入りスパイシーサラダ「ラープ」Lab (ลาบ)
ラープとはひき肉を、ハーブと調味料で味付けした煎り米入りスパイシーサラダです。地域によっては生肉を使うところもあるので、加熱したラープを注文するようにしましょう。
ラープイサーンは、豚ミンチ、牛ミンチ、ロースト鴨ミンチなどの肉に、味付けはナンプラー、唐辛子、カオクー(すりつぶした煎り米)、ライムジュース、ミント、シラントロ(ハーブ)、パクチーイサーン(茎が短く他のパクチーよりも香りが強い)、パクチーの根っこなどを入れたものです。カオクアが入ることによって、香ばしい香りとプチプチとした食感が残り、ハーブ類とともに肉類の生臭さを消してくれる効果があります。
ハーブ類は主に、サラネー(タイミント)、分葱(わけぎ)、紫玉ねぎなどが使われていて、付け合わせの生野菜はキュウリやホーリーバジルの葉、オリーブの葉など、主にイサーン地方の各家庭の庭先に生えている野菜と一緒に食べます。
ちなみに北部地方のラープはラープクア(北部のラープ)と呼ばれ、味付けが異なります。豚の血入りで黒っぽい色をしています。バッファロー肉を使ったラープもあります。
ウドーンターニー県バンチェン郡のご当地グルメ
ラープペット・・・ロースト鴨ミンチのラープ
ヤソートーン県ご当地グルメ
ラープヌア(牛ミンチ)、ラープムー(豚ミンチ)
4、酸っぱいのはなぜ?発酵させるとおいしさが増すソーセージ「サイクロー」Sai Krok (ไส้กรอก)
サイクローは、ソーセージの東北版です。ソーセージ自体はタイ全国どこにでもあり、北部版は「サイウア」と呼ばれています。保存食として豚肉、牛肉、バッファロー肉を使ったソーセージが各地で発展していきました。イサーン地方では、豚肉を使い発酵させた酸っぱいソーセージが有名です。イサーンは、昔から岩塩が採掘されることで保存技術が発達しています。ソーセージににんにく、米、塩を混ぜることで香りと味に深みが出ます。また、サイクローは常温で3日くらい置いておくと発酵が進みさらに酸味が増します。
カラシン県ご当地ソーセージ
サイクロープラー・・・魚のソーセージ
チャイヤプーム県ご当地ソーセージ
サイクローバッファロー・・・水牛のソーセージ。炭火で香ばしく焼くとおいしい
サイクローの付け合わせ・・・薄切りきゅうり、薄切り(またはさいの目切り)しょうが、唐辛子、ピーナッツ、
5、東北版トムヤムスープ「トムセープ」Tom Sab (ต้มแซ่บ)
東北版トムヤムと呼べる「トムセープ」の”セープ”は、イサーンの言葉で“美味しい”という意味もあります。豚肉や牛肉の内臓を生唐辛子か乾燥唐辛子、マックルーというこぶみかんの皮やレモングラス、パクチーなどのハーブで煮込む辛酸っぱいスープです。キノコ、トマトなども入れて煮込み火を止めてから最後にライムジュースを入れて完成です。
イサーン地方の食文化こばなし
イサーン地方はもち米食べる文化があります。もち米は指で丸めながら食べます。
竹製のもち米入れクラティップ(カティップ)は、レストランなどでもち米を注文すると中に蒸したもち米が入って出てきます。イサーンでは、田んぼ仕事に行くときにこのクラティップにもち米、乾燥ソーセージ、発酵魚、ディップソースを入れて出かけます。農家の定番のお弁当箱とお弁当の中身です。
イサーン(東北地方)食文化の旅
~見逃せない、食べ逃せないスポット&グルメ~
ナコーンラーチャシーマー県のおすすめスポット&グルメ
タイ東北イサーン地方の玄関口、ナコーンラーチャシーマー県のおすすめスポットと地元グルメのご紹介します。
ピマーイ歴史公園
国内最大規模のクメール遺跡が残る町、ピマーイ。アンコールワットのモデルとなったと言われている史跡公園です。毎年11月、遺跡を舞台にしたライト&サウンドショーが開催されます。繰り広げられる歴史劇は、タイムスリップしたかのような雰囲気になります。
ナコーンラーチャシーマー県のおすすめグルメ
乾燥トウガラシを使用した「ソムタムコラート」
トウガラシの代わりに乾燥トウガラシを使っています。
発酵した米麺を使っていて酸味があるのが特徴「カノムチーン・プラドック」
カノムチーンはタイ全土で食べられているタイ料理の一つですが、養蚕が盛んだったパクトンチャイ郡の「カノムチーン・プラドック」は発酵した米麺を使っていて酸味があるのが特徴です。パクトンチャイ郡はもともと養蚕を営む家庭が多かったのですが、ジムトンプソンが世界にタイシルクの良さを広めたことで注目されました。
プーウィアン国立公園
イサーン高原は、かつては恐竜の故郷でした。先人たちを描いた先史時代の壁画など数多くの考古学的ポイントがあり、恐竜の化石もここで最初に発見されました。
コーンケーン県のおすすめグルメ
コーンケーンのカオスアンクワーン郡はガイヤーン(焼き鳥)通りと呼ばれている通りがあり、焼き鳥を売る店は100軒近くあります。竹ひごに刺した平飼いの鶏を炭火で焼いた鳥はそのおいしさが全国に知れ渡っています。このエリアのグリルチキンは弱火で焼かれ、肉は柔らかくしっかりしていて皮はサクサク、スパイスがたっぷり入っています。
ワンナーガイヤーン・カオスアンクワーング(焼き鳥ガイヤーン、イサーンソーセージ)
カオスアンクワーン郡に来たら、外せないのがこのレストランの美味しいガイヤーン(焼き鳥)とイサーンソーセージです。1987年10年、タイの「シェルチュアンチム」プロジェクトで美味しさを保証するラベル「緑のどんぶりマーク」を受け取りました。
ウドーンターニー県のおすすめスポット&グルメ
バンチェン遺跡
11月~2月が見頃のノーンハーン湖の赤い睡蓮、ユネスコ世界遺産に登録
タレー・ブア・デーン (紅い睡蓮の海)
ノーンハーン湖の紅い睡蓮の絶景
ウドーンターニー県のおすすめグルメ
ベトナムやラオスからの移住者が多いのも特徴で、食べ物にも両国の影響を受けているものがあります。
ロースト鴨ミンチのスパイシーサラダ「ラープペット」
他にも豚、牛のミンチも使用。ウドーンターニー県と並んでヤソートーン県もラープが有名です。
イサーンスタイルソーセージ「サイクローイサーン」
タイ全土で食べられる特に屋台料理として知られているソーセージ。イサーンの人々は、あえて冷蔵庫で保存せず発酵させてからより酸味とうま味が増してから、炭火焼や揚げ焼きにして食べることがよくあります。豚、牛、また特にチャイヤプーム県では水牛(バッファロー肉)を使っています。魚を使ったサイクロープラーは、カラシン県が有名。にんにくと発酵した米が使われていて、これもまた美味。付け合わせの生姜のスライス、ピーナッツを添えて食べます。
もち米と一緒にスープを食べるのがイサーン流「トムセープ」
酸味のあるスープで、”セープ”はイサーンの言葉で“美味しい”という意味もあります。スープの決め手は火を止めてからライムジュースをひとかけすることです。火が付いたままだと苦みがでてしまいます。イサーンはパームシュガーなどあまり使わず、塩気、辛みや酸味が特徴です。食材には、パクチーファランも使い、より一層美味しさを引き出しています。もち米と一緒にスープを食べるのがイサーンの一般的な食べ方。田畑で作業する時は、”ガティ”という竹籠にもち米とおかずをいれて持っていきます。
酸味もなくマイルドな味わい「ベトナムスタイルのソーセージ」
- キング・オーチャー
- クルアクンニット
- チャバー・バーン
- ウドーンターニーのグルメ
ノーンカーイ県のおすすめスポット&グルメ
ワット・ポーチャイ
ノーンカーイで最も信仰を集める寺院。毎年4月のタイの旧正月ソンクラーン時期には、メコン川を渡ってラオスからも参拝に訪れる霊験あらたかな寺院です。
タイ・ラオス友好橋
メコン川にかかる、1994年にオーストラリア政府の援助を受けて完成したタイ(ノーンカーイ)とラオス(ビエンチャン)を結ぶ長さ1,174mの国境の橋。
ノーンカーイ県のおすすめグルメ
ベトナムのデザート「カオソイ」
ベトナムのデザートで穀類、ナッツ、ゴマなどをミックスしたお菓子。朝市で売られています。
レッドカレーを蒸し焼きにしたもの「モック」
レッドカレーをバナナの葉に巻いて蒸し焼きにしたもの。
タイの食文化について 〜北部編〜タイの食文化について 〜東北(イサーン)地方編〜
タイの食文化について 〜南部編〜タイの食文化について 〜中央部編〜