アーティスト、ペエが紹介する、夢が詰まったアートスペース「Dream Space Gallery」

ニュー・ニュー・タイランド僕たちが好きなタイランド Vol. 5

チェンマイは開いている。リビングも半分外だったり生活の様子が丸見えの家がある。トゥクトゥクや乗り合いバスだってドアもないし、気軽に飛び乗れる。外と内の境界線が曖昧なところがチェンマイの好きなところ。

チェンマイはアーティストが多く住む街といわれている。街にはギャラリーも多く、隣町のサンカンペーンには世界中から注目を集める近代美術館「MAIIAM」がある。北タイの歴史的文化を受け継ぎながら新しい物を受け入れるオープンなこの街の空気は、物作りをする人には魅力的な街だと思う。

チェンマイを訪れると何人かの友人に連絡をする。「今どこ? じゃあそこ行くね!」ですぐに会えるのがコンパクトで動きやすいこの街の特徴。ペエもそんな感じで会う友だちの一人。彼は「New New Thailand」の本の取材の時にインタビューをしたロックバンド「Sanimyok」のメンバー。フォーク、ロック、オリジナルの楽曲や名曲のコピーなどチェンマイを中心に音楽活動をする傍ら、グラフィティ、ペインター、アーティストとして暮らしている。好きなことを続けながら自由に生活する彼の姿がとてもいい。そしてよそから来た僕をいつでも暖かく迎え入れてくれるおおらかさにも好感を持った。

ペエにテキストを送る。アートスタジオにいるよ、とすぐに返信があった。「じゃあいくね!」

旧市街からも新市街からもトゥクトゥクで5分というアクセスのいい場所にある「Dream Space Gallery」の敷地内に仲間たちとスタジオをシェアしているという。まるで学校のような大きな建物。外壁には大きな壁画が描かれている。中庭のいたるところに彫刻作品などが点在しているかと思えば、スケートボードのランプも置かれていたりする。一体ここは何のための施設なんだろう? 初めて来る人はみなそう思うはずだ。

ペエが現れた。「ちょうど友だちの個展の準備を手伝っているんだ」。仲間と楽しそうに木工作業をしていた。
「元々この敷地と建物は縫製工場だったんだ。工場が閉鎖されて空き家になっていた建物を、そのオーナーが無償で提供してくれているんだ。タイではこうやって個人的に若い人をサポートしたり、得た富を次の世代へ恩返しをする人がいるんだ。そして彼はなによりアートが大好きなんだよ」

ここ「Dream Space Gallery」はギャラリー、アートスタジオ、カフェ、ショップ、ホテルが入った複合施設だそう。たくさんのアーティストが制作活動の場所として使用したり、チェンマイだけでなく他の街から訪れるアーティストもここで作品を展示している。大きな施設なのに誰もが自由にやっていて、なんだかこの緩さがチェンマイらしい。

「僕たちアーティストにとってチェンマイはとても住みやすい街。バイクで5分、スケボーなら15分でどこへでも行けるんだ。この街にアーティストが集まるきっかけになったのは、1990年代初頭、あるアーティストの集団が一斉にチェンマイに移り住んだこと。

彼らはこの街で「チェンマイ・ソーシャル・インスタレーション」という野外彫刻芸術展を開催したんだ。チェンマイだけではなく世界中のアーティストが参加して街中にアート作品を展示するイベント。それがきっかけとなりチェンマイはアートの街、そしてアーティストに対して寛容な街になったんだ」

なるほど、街中に彫刻作品や壁画をよく見かけるのはそのときの流れなのかもしれない。

このスタジオではペインター、彫刻家などさまざまなアーティストが自由に制作活動をしていてアーティスト同士も仲がいい。完成した作品を発表したいと思ったらギャラリースペースで展示もできる。街からのアクセスもよく、僕がいる間にも自然と仲間たちが集まって来た。オープンでとてもいい空気感が流れた場所だ。そして建物のメインのスペースでは常設展が開かれていて、訪れた誰もが無料で自由に見られるように開放されている。

常設展の会場は学校の体育館がいくつも入るくらい広い。ちょっとした音楽イベントなら十分以上の規模だ。そこではタイで有名なグラフィティアーティスト、アレックス・フェイス、ムエボン、ゴン・クロムクリエンたちの壁画を気軽に見ることができる。特別な展示でしか見られないような作品の数々がこんなに気軽に見られるなんて拍子抜けするくらい驚いた。

「タイでは特にグラフィティアーティストの作品がアートとして認識してもらえる機会が少ないんだ。僕らの活動をもっとたくさんの人たちに知ってもらえたらキャリアももっと広がる。発表した作品が売れて、その資金でさらに制作活動ができたらいいなと思ってる。これからアート活動をしようと思っている若者のお手本にもなるためにね。同じ気持ちでこの場所を提供してくれているオーナーにもとても感謝しているよ」

立場や世代は違うけれど、同じ志を持った人たちが一緒に自分たちの未来に目を向けられるなんて、なんて素晴らしいことなんだろう。

みんなの願いが集まっているこの場所がチェンマイの街中に当たり前のように存在していることが羨ましい。

何度も訪れているチェンマイに、たくさんの夢の詰まったこんな場所があるなんてペエに出会わなかったら知らないままだった。多才な彼のオープンでおおらかな人柄が、魅力的なアーティストやアート作品とも引き合わせてくれた。

チェンマイは地元の人、北タイに住む少数民族やタイ全土、さらには世界中から多くの人が集まり独特な文化を作り上げてきた街。アーティストがこの街に魅了されて集まってくるのにも納得。チェンマイに来たら「Dream Space Gallery」を訪れてこれから始まる新しいチェンマイを感じて欲しい。もしペエや仲間たちを見かけたら気軽に声をかけてみてみよう!

文・写真::竹村卓

●プロフィール

ペエ (Sanchai Chaiyanan )
チェンマイ出身。バンド「Sanimyok」のベーシスト、グラフィティアーティストとしても活動中。「Dream Space Gallery」ではシェアスタジオの管理役も担当している。彼のグラフィティはチェンマイの街中でも見ることができる。

●スポット情報

Dream Space Gallery
98 alley 1 Tambon Hai Ya, Mueang Chiang Mai District, Chiang Mai 50100
Instagram : @dreamspacecnx

■ カルチャーブック『NEW NEW THAILAND 僕の好きなタイランド』

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